さくら 花吹雪

 


     

     さくら さくら

     満開に咲く桜

     散りゆく桜

     八〇歳の春は

     生まれたばかりの桜色の赤子のように

     吸い込まれていく

     人に恋い慕われながらも

     桜は覚悟があって散っていくようで

     老いた哀しさを話してみたくなってくる

 

     境内があまりにも静かで

     桜のたたずまいから一陣の風が起こると

     こみ上げてくるものがあって

     私の出会ったいくつもの桜が目に浮かんでくる

     過ぎた人生の節目に出会った桜の物語が鮮明になり

     体のどこかに潜んでいる忘れものを

     拾っていくように思えてくる

 

     故郷の山の一本の桜が蘇ってきた

     光をはじき 喧噪を逃れ

     注目されないまま自らの命を山の神にゆだるように

     満身で山になろうと咲いていた桜木は

     空と山を結ぶ寡黙した美しさがあった

 

     あの風景に私の運命を重ねていくと

     白い馬が横切っていったように思えた

     生きる答えを示すように

     今年の桜は白い馬の幻想を作ったのだろうか

 

     つんざくように鶯が境内で囀った

     見やると歴史を編みこんだ古い鐘楼が見えてきた

     今宵 月明かりの中

     桜は思い思いに揺れて

     逆巻く流れに時を重ねていくのだろう

 

     この頃 身内や友が逝ってしまって

     その寂しさは時に絡まり沈黙したままであるが

     今年の桜はひとつの明かりをつけるように

     私の命を包んでいく

     伸びやかに明日への影絵を踏みたいと思えた時

     境内の桜は強風に揺れ

     本殿も鐘楼も花吹雪でかすんでいった

     さくら さくら





 


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