百日紅は時を刻んで
庭のつつじの傍らに 二年の四季を越えた 愛犬「こむぎ」の墓があります 風が大好きだった「こむぎ」のために 夫の手作りの風車が 切れることなく供えられています。 風を受け風車はくるくるとまわり その風の行方を眺めながら 私の思いもくるりくるりと回ります 子犬の頃は眼鏡や本をかじったり タオルで綱引きをしたがったり じゃれた遊び探しをしていましたが 大人になるにつれ家族の気持ちがわかるようで 家を守ろうとするのです 縁側の椅子に座り 散歩のルールを考えている様子で眠ったり 家のあらゆる空間と時間の隙間に潜り込んで 見えないはずの家族の歴史を嗅覚で理解していくようでした 風に揺れる庭の花を見せると 「分かっているよ」と眼を瞬かせ 私の命の絵図を豊かに広げてくれました けれど夕方 時を知らせる町のチャイムが鳴ると 自分の祖先を感じるのか吠える哀しみの声は 犬族への郷愁かと感じられます それでも人と犬の境界線を越えて 無言で傍らに寄り添ってくれた慈しみが今も蘇ってきます 今朝はクマゼミがシシシシシシ―と鳴いて 小さな物語は風にも消されていくのでしょうか それでも どこかに物語の続きがあるように思えてくるのです 夏空に両手を広げ 薄紫の百日紅は静かに時を刻んでゆきました。